クオリティマネジメント Quality Management

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HOME > 2013年7月-9月(No.6) > 特別企画 > 「第96回品質管理シンポジウム」ルポ

「第96回品質管理シンポジウム」ルポ 世界最高技術と日本品質を極める人材育成~持続可能な品質優位の経営~ 荒木 孝治 関西大学商学部 教授

はじめに

岩崎氏
岩崎氏

2013年6月6日(木)~8日(土)の3日間、箱根ホテル小湧園において第96回 品質管理シンポジウム(略称:QCS)が開催された。QCSは、6月・12月の年2回、箱根で開催される品質管理関連のシンポジウムである。本シンポジウムの企画は、6名の組織委員により行われる。今回のテーマは、「世界最高技術と日本品質を極める人材育成~持続可能な品質優位の経営~」である。本シンポジウムの主担当組織委員は、岩崎日出男氏(近畿大学名誉教授)。プログラムの全体を表1に示す。(関連記事:2013年4月ー6月「第96回品質管理シンポジウム」連動特別企画)


表1 第96回品質管理シンポジウム プログラム

月/日 科目 講演者
6/6
(木)
<特別講演>
「日本品質と現場力」
遠藤 功
早稲田大学大学院商学研究科
(ビジネススクール)教授
(株) ローランド・ベルガー日本法人 会長
6/7
(金)
<オリエンテーション>
「世界最高技術と日本品質を極める人材育成
~持続可能な品質優位の経営~」
岩崎 日出男
近畿大学 名誉教授
※96QCS主担当組織委員
<講演1>
「DNPの技術開発と人材育成」
高波 光一 大日本印刷(株)
代表取締役副社長
<講演2>
「オムロンヘルスケアの技術開発と人材育成」
田中 孝英
オムロンヘルスケア(株)執行役員
商品開発統轄部長
<講演3>
「東京スカイツリー 高速エレベータ開発技術での人材育成」
原田 豊
東芝エレベータ(株) 顧問
<講演4>
「スーパーコンピューター「京」*1*2
~10ペタフロップスへの挑戦~」
追永 勇次
富士通(株) 次世代テクニカルコンピューティング
開発本部長
グループ討論  
6/9
(土)
グループ討論報告(10分×6班 ※予備15分) 司会:岩崎 日出男
報告:各班リーダー
総合討論
第96回品質管理シンポジウムまとめ 岩崎 日出男
主担当組織委員
第97回品質管理シンポジウム案内 圓川 隆夫
東京工業大学 教授
※97QCS主担当組織委員
  • *1 スーパーコンピュータ「京」は理化学研究所と富士通の共同開発です。
  • *2「京」は理化学研究所の登録商標です。

初日(6月6日、木曜日)夜

QCSは、6日の夕食後、約1時間半の特別講演ではじまった。今回の特別講演の演者は、早稲田大学ビジネススクール教授で(株)ローランドベルガー日本法人会長の遠藤功氏である。岩崎組織委員から「遠藤氏の著書は読むたびに感銘を受ける。品質管理やTQMの推進の中で、現場という言葉がよく使われるが、私たちは合理的かつ実践的に、確かに現場を理解しているのだろうか。そのあたりを熱く語っていただけると期待している」という言葉があった。

<特別講演>

「日本品質と現場力」
 遠藤 功 氏(早稲田大学ビジネススクール 教授/(株)ローランド・ベルガー 日本法人会長)

遠藤氏
遠藤氏

遠藤氏は、講演の冒頭に『よい製品とは何か』[1]という本とともに、その終章にある「より良い品質は、善である」という言葉を紹介した。では、善とは何か。これが本講演の大きなテーマの1つである。

品質についての議論を行う時、私たちは品質とは何かということを定める必要がある。なぜなら、品質は常に進化しなければならず、時代によって品質の意味が異なるからである。今、日本企業にとって大切なことは、今までのものとは異なるプレミアム品質への挑戦であり、組織における組織密度(一体感)と組織熱量(エネルギー)を高めることが重要である。そのためには、競争力をもつ強い経営を構築する必要がある。

社員のモチベーションの高さを財産とし、若い人たちに思い切り任せるフラットで垣根のない会社である、ガリガリ君アイスで有名な赤城乳業(株)。東日本大震災の直後、自分で何かできることはないかを考え、現場の判断で車を動かし自律的な行動をした宅急便のヤマト運輸(株)。大宮魂を誇りとし、年間千両のメンテナンスを行い、故障件数が0.27件/百万キロというJR東日本大宮総合車両センター。フランス国鉄総裁に輸出してほしいとまで言わしめた新幹線の清掃サービスを行うJR東日本テクノハートTESSEI(テッセイ)。これらのすばらしい事例から競争力のあり方を考えると、結局、それは現場に帰着する。

では、現場力とは何か。それは、自ら問題を発見し解決する力、および、点ではなく、面の力を発揮する全員参加の組織能力をもち、これらを基に、独自の優位性につなげる力をいう。この時、TQMの基本である「小さな奇跡」をたくさんつくるという改善・改良が重要となる。また、見える化の前には、何でも自由に言える「言える化」が必要である。実行においては単なるDoではなく、やり抜く・やり切るというPenetrateでなければならない。日本の多くの現場から、こうした風土や覚悟が見えてこなくなっている。

強い経営とは、骨太で合理的なビジョン・戦略のもとでオペレーションを行うというピラミッドだけではなく、社長・役員および本社・本部がオペレーション(現場力)を支えるという逆ミラミッドが組合わされた経営である。

講演の最後に、多くの日本企業は今、“ノリ”が悪いという話があった。ノリとは、会社全体の雰囲気、気分、ムードのことであり、ノリが悪いままでは、逆転も成功も起こりえない。ノリの良い会社として、「やってみなはれ!」が会社の風土となっているサントリー(株)、および、TESSEI(テッセイ)のノリ語集とノリません語集が紹介された。ちなみに、ノリ語には、「ありがとう」「がんばっているね」「さすがだね」が、ノリません語には、「あんたねー」「がっかりだね」「最低だね」などがある。

会場の様子

講演会の後、翌日から本格的に始まるグループ討論の準備として、班メンバーの自己紹介と情報の再確認やテーマの絞り込みなどが行われた。

2日目(6月7日、金曜日)

2日目は、4つの講演からスタートした。これらは、講演自体の関心のみならず、グループ討論のための題材を提供することも目的としている。 講演の要旨を次に示す。

<講演1>

「DNPの技術開発と人材育成」
 高波 光一氏(大日本印刷(株) 代表取締役副社長)

高波氏
高波氏

大日本印刷(株)(DNP)は、2013年10月に創業137年を迎える。出版印刷からスタートしたが、現在では、出版印刷・商業印刷のみならず、ビジネスフォーム、アドバンスドオプティクス、ファインエレクトロニクスなど、情報コミュニケーション分野、生活・産業分野、エレクトロニクス分野にまで業容を拡大している。この発展の元には、DNPの企業精神である「文明の営業」がある。これは、「文明に資する業を営む」ことを意味するが、第2次世界大戦後、社会の発展につくすことをめざして、新しい事業展開を印刷の応用領域を拡大するという「拡印刷」に努めてきた。2001年からは「P&Iソリューション」へと発展させ、「未来のあたりまえを作る」ことにより、21世紀の創発的な社会に貢献することをめざしている。なお、P&Iは、Printing TechnologyとInformation Technologyを意味する。

このような総合ソリューションの提供企業としての活動の基礎に、技術開発における人材育成がある。求められる技術者像のキーワードとして、積極的、肯定的、現場実践型、チャレンジ精神、環境変化への適応力、情報収集力、構想力、対話力、リーダーシップ力、マネジメント力などを設定し、教育の基本方針に、心・技・体を掲げる。「心」では、何事にも前向きに自立的にチャレンジし、目標を達成することを目標にした教育プログラムが作られている。また、「技」では、組織・個人のスキル向上を目的に、テクニカルスキル力、対話・ヒューマンスキル力などの向上を図る。「体」では、実践、リーダー型技術者の育成を目的とし、ビジネス感覚や戦略構想力、リーダーシップ・指導力の向上を図っている。

箱根で開催される「DNP創発の杜」は、合宿形式で行われる討議・ディスカッションおよび懇親の場である。また、生産革新活動では、国内外の現場改善実践会の運営、指導を行っている。これは、グローバル化に向けた現場改善のレベルアップをねらい、インドネシア、マレーシア、アメリカの海外製造拠点での実践研修も行っている。なお、事業開発センターを1年前につくった。ここでは、研究のための研究ではなく、研究成果を事業にどう結びつけるかということを目的として、研究者およびマーケティングの人間が一緒になって事業開発を行っている。

<講演2>

「オムロンヘルスケアの技術開発と人材育成」
 田中 孝英 氏(オムロンヘルスケア(株) 執行役員 商品開発統轄部長)

田中氏
田中氏

オムロンヘルスケア(株) は「地球上の1人ひとりの健康ですこやかな生活への貢献」というミッションを実現するために、全世界に向けて世界最高品質の商品・サービスの提供にチャレンジしてきた。しかし、このチャレンジの中でものづくり改革に長年取組んできたが、業務管理に主眼をおいた改善活動では品質も効率も一定以上に上がらないという課題を認識していた。これに対する答えとしてTOCに出会い、“人を中心とした”ものづくり改革に取組んだ。

TOC(Theory Of Constraint:制約にもとづく理論)は、ゴールドラット博士が開発したシステムの最適化理論である。TOCでは、システムの中でボトルネックとよばれる全体を制約する箇所に集中することが全体最適を生み出すと考える。逆にいうと、非制約部分には注力する必要はない。TOCは当初、製造業に適用されたが、これをプロジェクトマネジメントに応用したのがTOC-CCPM(クリティカルチェーン・プロジェクトマネジメント)である。

プロジェクトにおいては従来、各タスクが安全余裕を密かにもっていた。TOC-CCPMでは、この安全余裕に注目する。各タスクがもつ安全余裕を取り出し、プロジェクト全体のバッファとして共有・管理する。この時、プロジェクトの進捗率(%)とバッファの消費率(%)のグラフを用いると、プロジェクトの早い段階で課題を発掘し、それに対して根本対策を取ることができるようになる。さらに、CCPMにおける関連部門を含むチームで標準工程表を作成することにより、ベテランがもつ暗黙知を若手に対して与えることができるという効果ももつ。CCPM導入前には427の改善プロジェクト(PJ)が進行していたが、これを25のPJに絞って推進したところ、開発工数の削減などの大きな成果をえた。

さらに、TOCによる全体最適のマネジメント改革を推進した。これは、商品企画から販売部門までの各部門間の「つなぎ」(連結)を行うことで競争力を向上させることを狙う。生産と販売の連結としては、需要連動型生産が可能となる。

結局は、全体最適が本質的なキーワードである。これにはさまざまな抵抗がありえるが、全員が目的、目標を共有し、全体を見据えて課題となるボトルネックを解消していくことにより達成することができる。また、変わるべきなのは現場ではなくマネジメントであり、マネジメントが変われば現場が変わる。TOC導入により、工数や在庫削減といった直接効果以外に、各部門が一旦全体をみた上で物事を考えるようになる。生産、営業にも連結が生まれ、成果が出やすくなることにより、モチベーションが向上し、自ら考え、決定することの必要性が理解され始めた。その結果、良いリーダーが育ちつつある。

<講演3>

東京スカイツリー 高速エレベータ開発技術での人材育成
 原田 豊氏(東芝エレベータ(株) 顧問)

原田氏
原田氏

2012年5月にオープンした東京スカイツリーは、世界最高の自立塔である。東芝エレベータ(株)は、そこに大容量(定員40名)タイプとしては国内最高速のシャトルエレベータを4台、国内最長の昇降行程をもつ業務用エレベータを2台納入した。エレベータは何よりも安全が基本であり、その上でお客様に安心して快適に利用いただけることが求められる。これを実現するために、東京スカイツリープロジェクトでは、仕様の決定から引き渡しまでを一貫した全社横断的な体制を取った。また、プロジェクトリーダーには若手の育成を目的として、若手を起用している。

このプロジェクトを支える最新技術には、設計・製造のみではなく特殊工法を採用した据え付け技術や保守技術がある。これはエレベータには、最終組み立てが行われてはじめて、引き渡し時の安全・品質性能が決定されるという特性があるからである。こうした最新技術での人材育成のために、技術の専門教育を中心とした周到な教育体系を確立し、それを支えるためにテクニカルセンターを活用している。本センターを中心に、工法の開発や改善、フィールド技術者の教育、海外の現地指導(OJT)を行っている。安全研修室には、過去の事故やトラブルを疑似体験できる研修施設が設置されている。

人材育成を含むこうした活動を支える根本には、イノベーションを追求するTOSHIBA SPIRITがある。東芝イノベーションは、21世紀に向けて世界に認知される強い東芝をつくるため、経営変革2001運動(MI2001)として1999年にキックオフした。これは、プロセス・イノベーションとバリュー・イノベーションの2つを追求する。この中で、トップダウン型のMI(Management Innovation)活動、ボトムアップ型のSGA活動、そして安全活動の3つを組み合わせることにより全社一体感を醸成することが人材育成のベースになっている。たとえば「テクニカルマスターズ」は、2001年から実施されている2日間に渡るミニオリンピックのような、技術に対するプライドをもった競技会である。これには、東芝エレベータの営業から保守・整備に至るまでの7部門に加え、工事協力会社や現地法人も参加する。

<講演4>

「スーパーコンピュータ「京」*~10ペタフロップスへの挑戦~」
 追永 勇次 氏(富士通(株) 次世代テクニカルコンピューティング 開発本部長)

追永氏
追永氏

理化学研究所と富士通(株)が2006年より共同開発を進めてきたスーパーコンピュータ「京」*は、2011年に世界ではじめて演算性能が10ペタフロップス(P Flops)を超え、世界一と認定された。10ペタを漢数字で表記する1京となり、「京」*の名称はこれに由来する。この開発プロジェクトは、科学技術および産業の競争力の基盤となる国家基幹技術として位置づけられている。

スーパーコンピュータの世界には、IBMやCray、富士通といったベンダー間の競争のみならず、国家間の競争もある。米欧という従来のプレーヤーに対して、中国が参入し、熾烈な競争を行っている。これは、コンピュータで仮想的な実験を行うシミュレーションが、理論や実験と並ぶ第三の科学・研究開発手段として確立され、ますます重要となってきたからである。

「京」*では、9万個に近い高性能CPUと、Tofuと呼ばれる通信ネットワークを独自に開発し、水冷の冷却方式を採用することにより高い信頼性と省電力を達成している。2012年9月からは一般利用者への共用が開始された。

「京」* の利用が期待される戦略5分野

  1. 予測する生命科学・医療および創薬基盤
  2. 新物質・エネルギー創成
  3. 防災・減災に資する地球変動予測
  4. 次世代ものづくり
  5. 物質と宇宙の起源と構造

たとえば、分野1では心臓シミュレータ、分野2では磁界シミュレータ、分野3では津波シミュレータの開発研究が大学の専門家などと共同で推進されている。心臓シミュレータでは、構造物(心筋)と流体(血流)を心筋細胞レベルから連成解析することにより、高精度な心臓シミュレーションを実現することを目的とするが、これは10PFlops級のスーパーコンピュータを用いてはじめて実用可能となる。これにより将来、1人ひとりの心臓の形状をコンピュータで再現し、手術前の評価や心臓病の診断が可能になることが期待されている。

現在は、エクサ級(1000PFlops)システムの実現に取組んでおり、その前段階としての100PFlops級システムを開発中である。これの実現には、最新テクノロジーを追求した半導体の開発やメモリの革新、高集積のシステム実装、高速伝達法の確立が必要であり、これらを重点技術開発として取組んでいる。
 

*スーパーコンピュータ「京」は理化学研究所と富士通の共同開発です。「京」は理化学研究所の登録商標です。

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