クオリティマネジメント Quality Management

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HOME > 2014年1月-3月(No.8) > 特別企画 > 「第97回品質管理シンポジウム」ルポ

第97回品質管理シンポジウム・ルポ ものコトづくり時代の品質と人材育成~ワクワク品質と安心品質の両立を支える更なる品質力強化を目指して 和光大学 経済経営学部 准教授 丸山一彦氏~

はじめに

2013年12月5日(木)~7日(土)の3日間、箱根・ホテル小涌園において、第97回品質管理シンポジウムが「ものコトづくり時代の品質と人材育成~ワクワク品質と安心品質の両立を支える更なる品質力強化を目指して~」(関連記事:vol.7(2013年秋号)「第97回品質管理シンポジウム」特別企画掲載)のテーマで開催された。シンポジウムは、特別講演、グループメンバー紹介、懇親会、基調講演、講演1~3、グループ討論、懇親会、グループ討論の発表、総合討論という流れになっている。プログラムは表1のとおりである。
 

表1 第97回品質管理シンポジウム プログラム

月/日 科目 講演者(敬称略)
12/5
(木)
<特別講演1>
「ブリヂストンの経営改革~『名実共に世界一の地位の確立』を目指して~」
涌井 史郎
東京都市大学 環境情報学部 教授
グループ討論メンバー自己紹介(顔合わせ)  
懇親会  
12/6
(金)
<オリエンテーション>
「ものコトづくり時代の品質と人材育成~ワクワク品質と安心品質の両立を支える更なる品質力強化を目指して~」
圓川 隆夫 氏
東京工業大学 教授
※97QCS主担当組織委員
<基調講演>
「アフェクティブな経営~感情経験を重視した商品・サービス開発とマネジメント~」
梅室 博行 氏
東京工業大学 大学院社会理工学研究科 准教授
<講演1>
「日立グループにおけるエクスペリエンスデザインの取り組み」
古谷 純 氏
(株)日立製作所 デザイン本部 主管デザイナー
<講演2>
「サッポロビールにおけるSNSを活用したコト化の実例」
大谷 光弘 氏
サッポロビール(株)営業本部 企画推進部長
<講演3>
「顧客価値に応えるモノコト作り」
保志 康徳 氏
(株)保志 代表取締役社長
グループ討論の主旨説明 圓川 隆夫 主担当組織委員
グループ討論  
12/7
(土)
グループ討論報告
総合討論
司会:圓川 隆夫
報告:各班リーダー
第97回品質管理シンポジウムまとめ 圓川 隆夫
主担当組織委員
第98回品質管理シンポジウム案内 中尾 眞 氏
(株)ジーシー 代表取締役会長
※98QCS主担当組織委員

本シンポジウムは、参加申し込み時に“どのテーマで議論を行うか”の希望が取られ、開催の約1ヵ月前ごろに、自分がどのグループに所属するかの確定メールが、メンバー間で使用できるメーリングリストを通じて事務局から届く。そして、グループリーダーより自己紹介の依頼、討論テーマ・方法、当日までの事前準備などについて、メールで分かりやすく説明していただける。このように手順が明確に示されていること、グループメンバーの意見や事例を参考にできるなど、1ヵ月という事前準備期間にじっくり考えられることから、はじめての方でも、戸惑うことなく、討論に入っていける環境がきちんと用意されている。

第1日目の集合は17時~19時で、夕食後に特別講演がある。集合時間よりも早くに箱根に入り、散策や温泉を満喫するのも、箱根シンポジウムの楽しみの1つである。

1日目

圓川 氏
圓川主担当組織委員による
オリエンテーション
荒川 詔四 氏
荒川 詔四 氏

19時30分より、総勢154名の参加者の中、まず今回の主担当の圓川隆夫組織委員(東京工業大学教授)から、オリエンテーションとして、テーマの主旨と以下の本シンポジウムの討論視点が説明された。

  1. ものコトづくりを持続的に成功させる品質管理、設計・開発、経営のあり方
  2. 価値共創戦略を実行できるグローバル人材の育成方法
  3. 2を行うための経営者の役割、企業経営の環境整備、設計・開発のあり方
  4. ワクワク品質の品質保証のあり方と安心品質を確保するための品質文化の方策

つづいて特別講演として、(株)ブリヂストン 相談役(前取締役会長)の荒川詔四氏による、「ブリヂストンの経営改革~『名実共に世界一の地位の確立』を目指して~」が行われた。経営の基盤となる品質や技術についてふれながら、荒川氏が実際に取組んだブリヂストンの経営改革の個々の内容と、そのバックグランドとなる考え方が説明された。タイヤ商品は、国際規格商品であるため、新規参入はあらゆる企業で可能である。そのため生き残るためには、規模の大きさをもつことが最低条件であった。しかし「需要・競争・収益」の急激な構造変化が起きたことで、それだけでは生きていけなくなった。そこで「グループグローバルにおける経営の最終目標の設定」「グローバル経営に最適な組織への組織改革」「中期経営計画の導入」「企業理念のリファインとCSRの導入」「コーポレートガバナンスの強化」の5点の経営改革を行い、この舵取りでもっとも重要なこととして、コマのごとく、回転のスピードを何倍速にも早め、それによって生じる遠心力によって、成長力を増していくことを力説された。そして不確実な時代の中、グローバルに活動する企業にとって、「何をやるか」とともに「経営の基盤と仕組みをしっかりさせること」が非常に重要であると指摘された。

約160名の参加者が講演に聴き入った
約160名の参加者が講演に聴き入った

特別講演終了後、21時から各グループに分かれてグループ討論がはじまった。初日は各班、自己紹介(顔合わせ)と明日からの討論のための下準備が行われ、22時からは会場を移し、グループ単位の懇親会が行われた。アルコールも入り、打ち解けた穏やかな雰囲気で談話が行われ、その後、疲れを取るため温泉に入られる方、明日の準備をされる方など、各々の箱根の夜を過ごした。

2日目

梅室 博行 氏
梅室 博行 氏

第2日目は、8時30分からはじまり、東京工業大学大学院社会理工学研究科の梅室博行准教授から、「アフェクティブな経営~感情経験を重視した商品・サービス開発とマネジメント~」と題した基調講演が行われた。消費者の選好について、20世紀の後半から、マーケティングの世界では、合理的な判断と感情的な判断が行われると指摘されてきた。近年では、この感情(アフェクティブ)の方で評価される商品や人が増えてきている。そのため、顧客にポジティブな感情経験を生み、愛着をもたれるような製品・サービスの創造の取組みが重要で、そのため経営者をはじめとする組織全体で感情経験を理解した「アフェクティブな経営」が必要だと述べた。そして良い感情経験を提供するためには、経営層が感情経験という価値意識をもっていること、組織の隅々にまで顧客の感情経験という価値意識が浸透していること、各部署が良い感情経験の提供というゴールのためにそれぞれの役割を果たすこと、製品・サービスそのものをデザインするのではなく、顧客のアクティビティや生活・人生をデザインすること、などが必要だと述べた。

古谷 純 氏
古谷 純 氏

その後50分ずつ3つの講演があり、それぞれに貴重な体験や実践にもとづく興味深い話があった。

(株)日立製作所 デザイン本部主管デザイナーの古谷純氏からは、「日立グループにおけるエクスペリエンスデザインの取り組み」というテーマで、日立のエクスペリエンスデザインの手法と技術が紹介された。近年は、製品システム(有形)のデザインから、サービスや事業創生支援といった無形のデザインまで行うようになってきた。そのためさまざまな専門知識をもつ多能集団によるエクスペリエンスデザイン(お客様が顕在的・潜在的に求めていることを発見し、それをリアルに描き出すことでユーザーの豊かな経験の可能性を製品・サービスの中に織り込むこと)が重要と指摘する。このエクスペリエンスデザインのプロセスにおける「潜在ニーズ発見手法」「経験の表記手法」「顧客との合意形成手法」について、具体的な事例を用いて紹介された。

大谷 光弘 氏
大谷 光弘 氏

サッポロビール(株)営業本部企画推進部長の大谷光弘氏からは、「サッポロビールにおけるSNSを活用したコト化の実例」というテーマで、「ビジネスシーズのコト化」を起点としたソーシャルビジネスモデルが紹介された。近年は、若者のテレビ離れとともに、テレビCMの視聴離れが起きており、消費財メーカーにおける広告宣伝環境の急激な変化が起きていた。そこで、ビールを直接売るのではなく、シーズや資産といった、ビールにまつわる周辺から、ブームやトレンドを発信し、収益化を図る、SNSを活用したマーケティングを行った。その具体的な取組みである「北海道likers」「百人ビール・ラボ」「極ZERO痛風ソーシャル」「わくわくブルワリー」の事例を紹介された。

保志 康徳 氏
保志 康徳 氏

(株)保志 代表取締役社長の保志康徳氏からは、「顧客価値に応えるモノコト作り」というテーマで、仏壇・仏具におけるものコトづくりが紹介された。近年、和室のない住環境への変化、神仏に対する信仰意識の低下、しきたりや慣習離れが起きており、宗教用具業界は市場規模が減少している。その一方で終活ブームや葬儀業界の市場規模拡大など、大きな環境変化が起きている。そこで単に仏壇・仏具を製造販売するのではなく、「祈りの文化のかたち」として仏壇・仏具を創造している。これはコトの中にモノがあるという考え方で、人間の最も崇高で価値のある心の領域に関する商品(モノ)と習慣(コト)を創造するというものコトづくりを、動画も交えながら説明された。

以上の基調講演、3つの講演から、この後行われる各グループの討論に、それぞれの視点から有益なアイデアやアプローチが与えられたと感じた。

グループ討論

講演がすべて終了した14時30分から、各グループに分かれて本格的なグループ討論がはじまった。各グループの討論概要を表2に示す。
 

表2 グループ討論概要

テーマ/リーダー 論点
1
“ものコトづくり”のための経営者の役割と経営環境・企業文化
  • 飯塚悦功氏(東京大学名誉教授)
  • 酒井和憲氏((株)アドヴィックス 常務役員)
  1. 経営者自らが持つべき価値観・行動原理
  2. 組織が有すべき特徴・能力の認識・確率・強化・実装における経営者の役割
  3. 社員がリーダーシップを発揮し活躍できる舞台の設計と運用
2
“ものコトづくり”における顧客を観察・理解し、顧客の想像を超えた感動を与える“コト”を創造するには
  • 奥原正夫氏(諏訪東京理科大学 経営情報学部 学部長)
  • 村山輝道氏(アイシン精機(株) TQM・PM・ISO推進部 主査)
  1. コトとして顧客が何をしたいのかを考えるための上手な観察方法とはどのようなものか
  2. 観察結果からのシナリオ造りと、シナリオを実現するためのモノ造りとはどのようなものか
  3. 考え抜いたモノ造りが顧客の感動に結びつくかどうかの検証はどのように行えばよいか
3
新興国市場で“ものコトづくり”を成功させるには
  • 山田秀氏(筑波大学 大学院 ビジネス科学研究科 教授)
  • 岡田慎也氏(ダイキン工業(株)地球環境担当 GRTプロジェクトリーダー 常務執行役員)
  1. どのような組織体制にすると顧客の要求が的確に把握できるか
  2. 市場の文化、特性など理解し市場に固有な適正品質を設定するにはどうするか
  3. ものづくりの強みを生かしつつ適正品質を実現するにはどうするか
4
“ものコトづくり”のための技術開発のあり方
  • 猪原正守氏(大阪電気通信大学 情報通信工学部情報工学科 教授)
  • 向井正人氏(本田技研工業(株) 二輪事業本部二輪品質保証部 部長)
  1. 先進国市場と新興国市場における“ものコトづくり”のための技術開発のありたい姿とは何か
  2. その姿を実現するに際して、1)120%の品質保証とは、2)商品開発における松・竹・梅―達成基準のレベル分け―は可能か、3)異文化社会における顧客ニーズ把握のやり方、4)開発体制・組織の構え方や開発拠点のあり方など、解決すべき課題は何か
  3. それらの課題を解決するための手段は何か
5
“ものコトづくり”のための人材育成と組織マネジメント
  • 加藤雄一郎氏(名古屋工業大学 大学院工学研究科産業戦略工学専攻 准教授)
  • 小泉雄大氏(コーセル(株) グローバルBM戦略開発室 課長)
  1. コトづくり起点のコンセプト開発:魅力的な製品・サービスを創造する際の源として「コンセプト」の重要性が説かれている。しかし、コンセプト開発手法はなお発展の余地が大きい。「経験価値(コト)」の観点からコンセプト表現と開発の在り方について。またコンセプトをベースにした新製品アイディア導出の思考プロセスについて
  2. コトづくり人材の育成と組織マネジメント:今後、共創的価値を発想および創造できる人材を育成することの重要性が説かれている。共創的価値を創造できる人材の育て方(人材育成)と、そのような人材を活かす組織マネジメントの在り方について
6
“ものコトづくり”における品質保証のあり方
  • 松田啓寿氏((一財)日本科学技術連盟 嘱託)
  • 佐藤義和氏(富士ゼロックス(株) CS品質本部 CS品質本部長 執行役員)
  1. ものコトづくりを通しての“ワクワク(高)品質”は、従来の品質保証と何が違うのか
  2. “ワクワク(高)品質”を持続的に提供するために組織がやるべきこと、やってはいけないこと
  3. 上記を踏まえて、次世代の品質保証とはどうあるべきか、打破すべき障害は何か

グループ討論では、各班の論点について意見交換が行われ、各社の事例が紹介され、中にはこの場だけなら話せるという貴重なものも飛び出した。さまざまな業種・役職・年齢での討論によって、新たな気づきや刺激がたくさん得られたと感じる。グループ討論の途中で夕食休憩に入り、豪華で美味しい食事とともに、他グループと進捗状況や討論内容を意見交換したり、各箇所で「ものコトづくり」についてワクワクさせられる議論が行われるほど、立食会は熱気に溢れ、あっという間の時間であった。討論会場に戻り、明日の発表に向けて最後の追い込みを行った。

グループ討論風景
グループ討論風景

3日目

最終日の3日目は、グループ討論の締めくくりである各班の発表会が8時30分から行われた。6グループの両リーダー(各班とも大学側と企業側から1名ずつ)が壇上に並び、それぞれ10分間ずつ発表を行い、表3に示す提言を行った。どのグループも有意義に討論が行われたとうかがえる、それぞれ斬新で独創的な発表内容であった。

※画像クリックで拡大できます。
表3 各グループの論点に対する提言
各グループの論点に対する提言
 
各班の両リーダーが壇上にならび、発表会、質疑応答が行われた
各班の両リーダーが壇上にならび、発表会、質疑応答が行われた

会場内からは、多くの質問が出され、1つひとつの疑問を整理していくことによって、本シンポジウムで討論してきた内容が一段と洗練されてきた。全グループからの討論報告、提言に対して質疑が終了した段階で、圓川主担当組織委員から1班のリーダーである飯塚東京大学名誉教授を指名され、今回の討論内容を踏まえ、“経営者の視点”でのまとめがあった(以下、参照)。

“経営者の視点”でのまとめ
○ものコトづくり

  • 価値(経験価値,顧客価値 )提供,ソリューション提供,ブランド確立

○経営者の役割:事業化の要件を整える

  • 事業構造を理解する
    顧客・市場:顧客は誰か,市場はどこにあるか
    価値:(製品・サービスを通して)どのような価値を提供するか
    競合:競合は誰か,戦いの場はどこか
    競争優位:(自社の特徴を生かせる)どのような能力が競争を制するか
    事業成立性:経済的に成立するか,良い位置にいるか,いつまで安泰か
  • 事業運営体制を整える
    製品:製品・サービスの妥当性検討・再定義
    システム:能力発揮のための組織・プロセス・リソースの再構築
    運営:リーダシップ,コミュニケーション,舞台づくり
  • 事業環境変化に対応する
    環境変化:環境変化の把握,洞察(変化の意味の理解)
    持つべき能力の変化:環境変化による競争優位要因の変化の認識
    革新:的確な戦略,実行指示・支援

シンポジウム全体のまとめ

最後に圓川隆夫教授から、以下に示すグループ討論と全体討論による提言のまとめ(図1、図2)が説明され、「ものコトづくり」研究への期待と今後の品質管理への貢献が話され、シンポジウムの幕が下りた。

ものコトづくり 成功のための7箇条
図1 ”ものコトづくり”成功のための7箇条
ものコトづくり 七つ道具
図2 ”ものコトづくり”七つ道具

おわりに

中尾 氏
第98回品質管理シンポジウム
主担当組織委員の中尾眞氏

最後に、次回の主担当組織委員の(株)ジーシー代表取締役会長中尾眞氏より「第98回品質管理シンポジウム」の案内が説明された。開催日は2014年6月5日(木)~7日(土)に「グローバル時代におけるダイバーシティを取り込んだ品質経営の実践」をテーマに行われる。ダイバーシティというテーマに鑑みて、多くの女性に参加してもらいたい主旨が説明され、何と次回は※本シンポジウム賛助会員会社様各社 女性1名は無料(一般参加は約半額)という特典が考えられていることが話された。ぜひ次回の品質管理シンポジウムには、多くの女性の方々に参加していただき、新たな刺激を与えていただきたい。

※特典の条件については、詳細が決まり次第こちらにご案内いたします。

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