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HOME > 2016年4月-6月(No.17) > 特別企画 > 「第102回品質管理シンポジウム」連動特別企画
特別企画 「第102回品質管理シンポジウム」連動特別企画

テーマ: 感動と安心への品質創造と品質保証
-ICTを活用した地球規模での感動・安心の創出-

鈴木 和幸 氏

第102回品質管理シンポジウム 主担当組織委員
電気通信大学 大学院 特任教授 鈴木 和幸

はじめに

今日、ますます厳しさを増すグローバル競争の中で生き残っていくためには、これまで長年にわたって培ってきた品質を原点とする経営にますます磨きをかけ、より特徴のある製品・サービスを生み出し、感動と安心をあたえる品質創造と品質保証を強化することが必要となります。

その方向性の1つとして、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を積極的に活用することにより、全世界人口72億人全体を顧客ととらえ、感動と安心を与えるものづくりとサービスを、地球規模で提供することがあげられます。ICTの活用は、国境や言語習慣に縛られることなく、顕在化および潜在化している顧客ニーズを探ることを可能とします。このニーズに応える“再定義”と“創造”を繰り返すことによって、顧客と社会に感動と満足を提供しつづけなければなりません。たとえば、家電機器の再定義、ITデバイスの再定義、カスタマイゼーションの再定義などにより、新たなモノ・サービスが創造されるでしょう。一方で、ICTをはじめとする先進技術の日進月歩の進化は、社会構造やサービスの体系を複雑化・高度化させ、副作用としての安全性の問題を誘起する可能性があります。そのため、ICTを活用した品質創造と並行して、ICTを活用した信頼性・安全性の追求も必要となります。さらに、“感動と安心”を持続的に提供するためには、日本的品質管理TQMの役割と考え方が必須となります。

ここで留意すべきは、ICTを活用した品質管理を行うことが目的ではなく、品質管理の基本に立ったICTを確立、活用して社会・顧客への感動と安心を与えつづけることが重要です。道具・手段としてだけでなく、今後のモノづくりとサービスの提供はICT抜きには語ることができません。

以上の視点より、「感動と安心への品質創造と品質保証」なるテーマの下、顧客と社会に感動と安心を与えるための企画を検討しました。

モノ・サービスの提供

はじめに、日本が生んだ広い意味での品質保証を考えましょう。モノづくり・サービスの目的は顧客と社会に感動と安心を与えつづけるモノ・サービスの提供にあります。そのためには、顧客のニーズを徹底的に探り、顕在ニーズ、潜在ニーズの両者を明らかにすることが必要です。現在のモノ・サービスは、すでに顕在化したニーズを満足し、あるいはねらいとする品質を達成することによって世界No.1の座を獲得してきたかもしれません。ところが、その顧客満足は代表的な顧客、使われ方・環境条件におけるものであり、地球上至る所の情報を網羅しているとはかぎりません。

とくに信頼性は、使われ方・環境条件により大きな影響を受けます。一般的とはいえない使い方や環境を前提とするユーザは、満足とはいえない信頼性を止むを得ず受け入れているかもしれません。加えて、信頼性を確保するための機器の保全周期は一律に決められていることも多く、○年ごとにあるいは実使用時間○○時間ごとにオーバーホールなどの予防保全が行われるのが主流です。本来、使用条件・環境条件によって保全周期は変わるべきものです。

また、顕在ニーズがあってもパレート図の下位に位置するものに対しては、アクションは二の次になりがちです。しかし、ICTの活用により市場が全世界となり、より幅広いユーザと繋がることが可能となれば、パレート図の下位であってもそのユーザの数は莫大なものとなり、取ったアクションがヒットする確率は高くなります。Chris Andersonはその著書『ロングテール』(2014)[1]にて、「ロングテール小売業者の場合、売れない90%の商品が売上全体の25%を占め、利益全体では33%を占める」と語っています。

一方、潜在ニーズに対して、ICT活用はどのような効果を上げるでしょうか。電話を例に考えますと、“電話を買うのではなく、使いたい機能を、使いたい時に使いたいだけ使い、使った分だけ料金を支払う”というニーズがあります。車にも同様に、“車を買うのではなく、使いたい機能を、使いたい時に使いたいだけ使い、使った分だけ料金を支払う”というニーズがあります。前者はプリペイド携帯、後者はカーシェアリングとしてサービスが提供されています。すなわち、あらゆるモノに“〇〇を買うのではなく、使いたい機能を、使いたい時に使いたいだけ使い、使った分だけ料金を支払う”という潜在ニーズがあるかもしれません。品質管理界では狩野紀昭先生の“魅力的品質とあたり前品質”が知られていますが、顧客の潜在的な要求への適合によってこそ、魅力的品質の創造に繋がります。ICTの活用により、上記のニーズの実現も夢ではなくなりました。

図1をご覧ください。この図の“市場・現場での使用”に関する情報を“ハインリッヒの法則”、すなわち1(死亡):29(骨折):300(かすり傷)の視点で眺めれば、300件のかすり傷にあたる情報をICTによって獲得することが可能となります。この潜在化した使用に関する事象を分析することにより、信頼性・安全性に関する情報のみでなく、魅力的品質の創造につながる潜在ニーズを発見することが期待されます。また、発見された潜在ニーズにもとづく企画が、図1における “顧客ニーズ”として成立するか否かを、ICTを通じて世界に問うことも可能になります。

図1. 市場・現場での品質・信頼性の把握とその活用
図1. 市場・現場での品質・信頼性の把握とその活用
「新版 信頼性ハンドブック」,日本信頼性学会 第Ⅰ部 3章(久米均)を元に著者が作成

たとえば上記のような方法により、図1に表す流れにより顧客・社会のニーズを把握し、それに適応した製品・サービスを企画・設計し、これを提供できるプロセスを確立すること、これをここでは“確保”と呼びます。図1のVerificationとValidation、すなわち仕様への合致のみでなく、顧客・社会のニーズが満たされているかどうかを三現の視点より事前にたしかめ、出荷後も継続的に評価・把握することを“確認”と呼びます。そして、どのようなニーズを満たすのかを顧客・社会との約束として明文化し、それが守られていることを証拠で示し、信頼感・安心感を与えることを“確証”と呼びます。これら“三つの確”、すなわち“三確”を考え、顧客・社会のニーズを確保・確認・確証するための体系的な活動が、広い意味での品質保証となります。ISO 9000における品質保証は、三確の中の“確証”に視点があると考えられます。そして、上記の体系的な活動を効果的かつ効率的に達成するための経営組織(仕組み)と科学的管理の体系の1つとして品質管理、そして信頼性工学が位置づけられます。以上を図2にまとめます。

図2. 顧客・社会の満足と安心への品質保証とICTの活用
図2. 顧客・社会の満足と安心への品質保証とICTの活用
参考: JSQC標準委員会編(2009) “品質管理用語85”, 日本規格協会
真壁肇編(2010) “新版 信頼性工学入門”, 日本規格協会

図1におけるICT活用には

 
  • 世界の至る所からの顧客ニーズの収集
  • 新たな企画の顧客ニーズとの適合性チェック
  • 設計における類似製品の機能達成メカニズムの参照
  • 顧客の使用・環境条件のシナリオにもとづく新製品の3H(変化・はじめて・久しぶり)に関する信頼性・安全性分析
  • 製造に関する各プロセスのBig Dataの蓄積とそのトレーサビリティーの確立
  • 製造設備保全へのBig Dataの活用
  • 試作品による従来の狭い条件下でのVerificationにとどまらず、ICTを活用した市場・現場全域をカバーするValidationを目的とする信頼性試験
  • 上市後の市場・現場の使用、すなわち現場での機能・性能・信頼性・安全性などの情報収集による顧客・社会のニーズへの適合を探る“Validation”情報の収集
などがあげられます。上記のうち、新製品の3H(変化・はじめて・久しぶり)への信頼性と安全性の確保は最も重要な課題の1つです。

 

「第102回品質管理シンポジウム」開催に向けて

本シンポジウムの講演プログラムを表1に示します。

表1 102QCSプログラム
月日 時間 科目 講演者(敬称略)
6/2
(木)
夕刻〜 <特別講演>我が国製造業はどこに向かうのか?
-「2016年版ものづくり白書」をふまえて-
糟谷 敏秀
経済産業省 製造産業局長
グループ討論/メンバー自己紹介
談話室(参加自由)
6/3
(金)
午前 主催者挨拶 佐々木 眞一
(一財)日本科学技術連盟
理事長
<基調講演>
感動と安心への品質創造と品質保証
鈴木 和幸
電気通信大学 大学院 特任教授
※102QCS主担当組織委員
<講演1>
日本の復権に必要なこと
辻野 晃一郎
アレックス株式会社
代表取締役社長兼CEO
<講演2>
水素社会の実現に向けて
-トヨタの環境技術戦略-
伊勢 清貴
トヨタ自動車株式会社
専務役員
午後 <講演3>
味の素(株)の安心、安全への品質創造
加藤 敏久
味の素株式会社
常務執行役員
<講演4>
インターネットの発展とIoT時代の品質管理のあり方
浅羽 登志也
株式会社IIJイノベーションインスティテュート
取締役
グループ討論
談話室(参加自由)
6/4
(土)
午前 グループ討論報告 司会:鈴木 和幸
報告:各班リーダー
総合討論
第102回 品質管理シンポジウム まとめ 鈴木 和幸
次回(103回)品質管理シンポジウム案内 103QCS主担当組織委員

所属・役職は掲載時のもの

第1日め18時からは、経済産業省製造産業局長糟谷敏秀氏に「我が国製造業はどこに向かうのか?―「2016年版ものづくり白書」をふまえて―」というタイトルにて、顧客の潜在ニーズを意識したイノベーションの創出、ならびにIoTを活用したさらなる生産性向上やビジネスモデルの変革とわが国の製造業の今後の方向性について論じていただきます。

第2日めは、鈴木による全体像の話のあと、ソニー、グーグル、独立起業という道を歩まれてきた、アレックス㈱代表取締役社長兼CEO辻野晃一郎氏に「日本の復権に必要なこと」というタイトルにて、日本が再び活力を取り戻すための鍵となることについてご講演いただきます。

次に、トヨタ自動車㈱専務役員伊勢清貴氏に「水素社会の実現に向けて―トヨタの環境技術戦略―」というタイトルにて、MIRAI発売にいたった背景や水素社会実現に向けたさまざまな取組みをご説明いただき、トヨタの環境技術全般や2050年に向けた長期ビジョンを語っていただきます。

味の素㈱常務執行役員加藤敏久氏には「味の素㈱の安心,安全への品質創造」というタイトルにて、原料製造から販売までの一気通貫の品質保証システムASQUAをご紹介いただき、食の安全体制強化への取組みについてご講演いただきます。

最後の講演としては、日本で最初に商用サービスを開始したインターネットサービスプロバイダとして㈱IIJイノベーションインスティテュート取締役浅羽登志也氏より「インターネットの発展とIoT時代の品質管理のあり方」というタイトルにて、インターネットの発展による通信サービスの変革、そしてIoT(The Internet of Things)の基本的な考え方と産業界全体へのインパクト、今後の方向性について論じていただきます。

グループディスカッション(GD)は図1の各要素に着目し、表2に示すように7つの班を設けました。各班のテーマと論点は下記のとおりです。

表2 各グループのテーマとリーダー
表2 各グループのテーマとリーダー
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以上の講演、グループディスカッションについて、一人でも多くの方にご参加いただき、これからの日本のモノづくり・サービスについて語り合いたいと思います。ぜひ積極的にご参加ください。

参考資料

  • [1]クリス・アンダーソン(2014):ロングテール‐「売れない商品」を宝の山に変える新戦略 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)、早川書房。
  • [2]日本信頼性学会編集(2014):新版 信頼性ハンドブック、日科技連出版社。
  • [3](社)日本品質管理学会 監修/(社)日本品質管理学会 標準委員会 編(2009):日本の品質を論ずるための品質管理用語85(JSQC 選書 7)、日本規格協会。
  • [4]真壁 肇 (編集)(2010):新版 信頼性工学入門、日本規格協会。

※「第102回品質管理シンポジウム」
日 程:2016年6月2日(木)~4日(土)
テーマ:「感動と安心への品質創造と品質保証―ICTを活用した地球規模での感動・安心の創出―」

品質管理シンポジウム専用サイト:http://www.juse.or.jp/qcs/

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