クオリティマネジメント Quality Management

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HOME > 2016年10月-12月(No.19) > コラム・エッセイ > 第23回「転換期における組織の戦略とクオリティマネジメント」
テーマ[過去・現在・未来]

第23回
転換期における組織の戦略とクオリティマネジメント

「過去・現在・未来」を題材としたQMコラムの執筆にあたり、大学院時代にまとめた論文を思い起こした。成長期、成長期の先にある「転換期市場における再生戦略」をテーマとして調査研究のまとめに差し掛かっていた2008年12月の日本経済は、世界的な金融危機の影響により景気が急速に減退し、倒産・リストラの嵐が吹き荒れ、企業の悲哀があちらこちらから聞かれていた。同時に、このような経営環境において、大企業ばかりでなく、規模が小さくても、たくましく地に足のついた経営を行い、荒波を乗り越えようとする企業が数多く存在していた。すなわち、企業の組織力は規模だけでないことを日本の産業界が証明していたのである。

大手企業は規模を強みとして技術力と外部組織を統合しながら競争力を高め、地場の企業は地場密着と組織内コミュニケーションをもとに競争力を培い特化した事業エリアの中で生き残りをかけている。その中にあって両者に属しない準大手クラスの組織は、再編による大手化をめざすか、特化戦略を採択し規模を縮小するという選択肢があるものの、私は準大手の組織的な強みを活かす戦略、すなわち技術力と組織内コミュニケーションを強化することが、組織の人間力を活かした、進むべき姿であると考えた。

そのためには、大企業的な組織をあらため、組織の風通しを良くすることに加えて、顧客の潜在ニーズを満たし、感動を与える技術を提供するための力を、トップから職場第一線までの全員が一体となって研鑽(けんさん)していくマネジメントを遂行しなければならない。その有力な方策としてTQMがあり、原則に合わない部分を見直し、産業特性に合致させ、弱点を補完することによって機能させることができると結論付けた。その具体論、すなわち転換期市場において企業が再生を果たすために取るべき戦略策定プロセスは、以下のとおりである。

1.利益構造変化の背景にある「価値構造」に着目する

市場のパラダイムシフトは、一般的に企業の収益構造変化という形で顕在化する。企業全体の利益率に加えてセグメント別などの層別を行い、競合他社との比較からその傾向を分析する。この段階では、表面的な利益追求に注力するのではなく、市場が求める価値、言い換えれば市場と企業収益の媒体ともいえる「価値構造」に着目することが肝要である。すなわち、市場転換に適応するためには価値構造を変革することが必要であり、その方法論を見出すことが成否の鍵となる。

2.価値の座標軸を定義し,マップ化(体系化)する

次に、市場の求める価値とは何であるのか、バリューチェーンを紐解きその要素を洗い出す。しかし、個々の要素を1つひとつ分析しても各論しか生み出せず、組織の方向性を導き出すことはできない。そこで、主要な要素を親和的に整理しながら数個の特質にまとめ、それらの特質を座標軸に据え、企業が提供している価値の強弱を座標軸上のマップで可視化する。

3.今後進むべき方向性をマップから読み取る

ポジショニングの結果、えられた現状の位置付けをもとに、今後進むべき道として強みを強化すべきか、弱みを克服すべきか、といった問題意識に沿いながら、他との競合性を意識しつつその方向性を明らかにする。その際に、座標軸に据えた特質同士の関連性も考慮し、複数の特質を同時に強化することによって、企業(または種類)の特徴を際立たせることが可能になる。なお、今後の方向性を結論付けるための根拠として、競争範囲(地理・上下流など)の異なる分野の先例に学ぶことも有効なプロセスである。

このステップによって、市場の求める価値と組織のもつ強み・弱みをマッチングさせることができ、組織が長年培ってきた強さを活かし、または致命的な弱点を正すための根拠を顕在化させることが可能になる。

4.組織の方向性にもとづき対応する戦略・ビジネスモデルを策定する

SWOT分析の要素として、「脅威」については利益構造変化(市場・経営分析など)のステップで、「強み」と「弱み」に関しては組織の方向性のステップですでに抽出しており、これに「機会」を絡めることで再生戦略を具体化することができる。さらにビジネスアーキテクチャなどの概念を活用して重点とする分野を絞り込み、対応する戦略・ビジネスモデルを編み出し、競争範囲拡大の可能性を模索しながら業績拡大のプランを錬成する。

5.戦略を具現化するマネジメントシステムを整備する

 戦略を実現するための具体的な作戦を展開する上で、企業のもつ歴史的背景、蓄積を考慮しながら、価値体系の方向性に合致する方法論を導き出すことが得策である。つまり、今までに培ってきた英知を有効に機能させることによって、他社に先駆け戦略を実現することができる。TQMを実践してきた企業は、TQMを有効に活用することに他ならない。しかし、現在保有しているノウハウ、技術、仕組みなどが価値に結びついていれば、企業は衰退しない。そこで,先行研究を紐解き、さらに企業再生の方法論として機能した企業、逆に機能していない企業を事例としてその原因を分析した結果、主な要因を以下のとおり分類した。

  • 原則どおりに機能していない。
  • 産業特性に合致していない。
  • 弱点を補完する方法論がない

上述の問題点を解決する対策を講じることによって、価値を創出するマネジメントシステムとして変貌する可能性を高めることができる。対策は各社の実情に応じて異なるが、以下に例を示す。

  • TQMの原則遵守:自発性を喚起する仕組み
  • 産業特性に合致したTQM:臨時性の高い職場における継続的改善の仕組み
  • TQMの弱点を補う品質経営システム:ブレークスルーを喚起する仕組み

6.マネジメントシステム再構築の条件をバリューチェーンに位置付ける

 戦略を展開し、具現化したマネジメントシステムを再びバリューチェーンに位置付けることによって、価値構造との関連を強固なものとする。これによって企業の収益構造に変化をもたらし、再生に資する戦略として機能できると結論付けた。

以上のプロセスを図示したものが図1.である。

図1.転換期市場における企業再生戦略策定・展開のプロセス
図1.転換期市場における企業再生戦略策定・展開のプロセス

なお、企業を再生するためには戦略策定に加えて、「経営者のリーダーシップ」「財務リストラ」「ステークホルダーとの関係再構築」といった要素も必要であるが、今回の論点は「戦略の策定と展開」に絞り込んでいる点を付記したい。

日本の経済界の過去を振り返ると、高度成長期、そしてバブルの時代は今までどおりの仕事のやり方でも利益が生み出せる経営環境にあった。しかし、バブル崩壊、リーマンショックを経て、東京オリンピック以降は少子高齢化社会の進行とともに再び厳しい経済環境が訪れると考えられている。そのような荒波が訪れても、企業には組織力を糧として再生を果たし、永続的な経営基盤を確保していくことが求められる。そして、私たちの使命は未来への備え、すなわち「企業戦略の実現に即したマネジメントシステムの再構築」を今から進めていくことにある。

(K.N)

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