クオリティマネジメント Quality Management

文字サイズ
  • 標準
  • 拡大
ログイン
掲載情報をメールでお知らせします。
購読申込
HOME > 2012年7月-9月(No.2) > 特集 > 日本のものづくりの「人」の力を再考する「遠藤 功 氏」
特集 日本のものづくりの「人」の力を再考する

真の現場力復活のために、経営トップは旗を掲げよ

遠藤 功 氏
早稲田大学ビジネススクール 教授
(株)ローランド・ベルガー 会長 遠藤 功 氏


 日本のものづくりの最大の強みである現場力は、今、どのような状況なのか?
復活と、生き残りをかけ、日本の製造業は何をなすべきなのか――企業の経営と現場を知りつくした遠藤功ローランド・ベルガー会長に話を聞いた。

経営ビジョンが示されなければ、現場活性化はありえない

―本日は、「日本のものづくりの「人」の力を再考する」という特集テーマでお話をうかがいます。かつて、日本のものづくりを世界トップに引き上げた原動力の最たるものは“人”つまり現場力、組織力だということは疑いのないところだと思います。しかし、最近では、そうした日本企業の強みに陰りが見える、といわれます。さらに昨年は東日本大震災もあり、日本企業は苦難の道に立たされました。今日では自動車の国内生産が倍増するなど、元気を取り戻したようにも見えますが、どうお考えでしょうか。

遠藤氏(以下略):元気を取り戻したとはいえないでしょう。震災の影響で激減していた国内生産量が増えただけです。仕事がないということが、現場にとってもっとも深刻な状況です。少しずつ仕事が戻ってきたために、現場が活気づいて復活したように見えるのだと思います。
 

―では、実際はどのような状況なのでしょうか。

現場では、10年後の自分たちの姿がまったく見えないのです。おそらく5年もすると、国内の3分の1の工場が閉鎖されるだろうという厳しい現状は、現場でもわかっています。では、自分たちの工場はどうなのか。会社はどうするつもりなのか。経営がはっきりとビジョンを示さなければ、本当に元気になることはありえません。当面の増産で活気が戻ったように見えても、根本的な不安はまったく払拭されていないのです。
 

―自分はいつまでこの仕事をやっていられるのか、心配をしながら仕事をしていて集中できない状況、これが非常に多いということですね。

経営が「これで飯を食っていく」という10年後まで見据えた戦略を示せない。そのしわ寄せがすべて現場に行っているのです。とりあえず明日の飯の種は今日何とかしようと一生懸命でも、本気で現場を活性化させよう、現場力を高めようという思いは生まれない。今自分が働いている現場が消滅してしまうかもしれないのに、現場力も何もありません。
 

―自動車も電機も、韓国企業に品質で迫られ、すでに追い越されているともいわれます。日本の現場力、そして、そこから生み出される品質は、どうなってしまうのでしょう。

とても単純なことです。海外でもつくれるものは、日本に残りません。海外でつくったほうが安いし、日本に残す必然性がありません。日本でしか実現できない新しい技術で、日本でしかつくれない新しい商品を生み出しつづけていくことが何より重要です。そうすれば必ず日本にものづくりは残るし、日本に現場は残るのです。

たとえば日産自動車は、マーチの生産をタイに移管しました。すると当然、これまでマーチを生産してきた追浜工場は、存在意義を問われることになりかねませんが、今は電気自動車のリーフの生産をしています。電気自動車の量産ははじめてでしょう。私が日産の現場はがんばっていると思ったのは、リーフを専用ラインではなく、混流ラインで生産していることです。混流にしないとコスト増になるためですが、構造が異なるガソリン自動車と電気自動車を一緒のラインで流すことは、現場の知恵がなければムリだったでしょう。生産技術や製造現場の知恵がそのラインに反映されています。この現場力はたいしたものだと思いました。

それも、リーフという商品があるから現場は工夫するのです。日本でしかつくれないもの、もしくは最先端のもの、世界初のもの。イノベーションを生み出していくことは、日本の製造業、日本のものづくりを残すためにもっとも重要な条件です。ところが、新興国向けといって安く、どこでもつくれるような製品の開発ばかりやっている企業が多いのです。

トヨタの労組の方と話した時、「今はハイブリッドがあるからいいが、そのあとが見えない」と心配していました。トヨタは国内生産として300万台残すというが、何をつくるのかはまだ見えてきません。
 

―それは見えないのでしょうか。あえて見せないのでしょうか。

たしかに、実際はいろいろと考えているでしょう。今はハイブリッドに注力しているため表面に出さないから、外からはわからないわけです。「300万台残す」というなら、日本でしかつくれないもの、トヨタでしかつくれないものを、当然考えて技術開発を進めているはずです。「どこでつくるか」ばかりでなく、「何をつくるか」をきちんと議論しなければならない。それこそが戦略です。

革新的な戦略があり、技術がともなっていて、日本でしかつくれない、その会社でしかつくれないものが継続的に出てくる状態であれば、現場にも活気が戻ってくる。しかし、それがなかなか見えないことが、現場の不安の種になっています。

素材でも同様で、新日鐵も円高で今は非常に苦しいといわれていますが、大きな収益をあげている製品もあります。それは鉄道のレールで、アメリカやオーストラリア向けの輸出が増えています。なぜなら、新日鐵のレールは圧倒的に品質が高いのです。レールは砂漠など、メンテナンスが困難な場所で使われることもあります。品質の落ちる安い鉄を使ってしまうと、コストがかかります。新日鐵のレールは購入価格は高いかもしれませんが、トータルコストで見ればはるかに安い。それは新日鐵でしかつくれないもので、八幡製鉄所でつくっています。

こうしたことで現場はプライドをもてるし、現場力がさらに高まる。つまり現場力だけ切り出して考えても仕方がなくて、現場力と戦略が連動しなければならない。連動していたから、たとえばトヨタはここまで強くなったのです。戦略が大きな岐路に立たされている今、現場力だけ議論していても意味がありません。
 

―企業の戦略があって、現場力が活かされるわけですね。

日本企業は円高や、震災をいいわけにしがちですが、もっと大きな構造的な変化が世界で起きているのです。それを考えた上で経営を見直すべきでしたが、日本企業は実際には対症療法的なことに終始してしまいました。

ビジョンがあって、戦略があって、そこに現場力がある。この3つは個別のものではなく、整合性がとれた、一貫したものでなくてはなりません。このつながりが描ければ、そのビジョンや戦略の実現のために現場ががんばることができます。目標や目的が不明確なまま、現場にだけ「がんばれ、がんばれ」といったところで、できるはずもない。

だから、私は「経営者は今こそ旗を立てろ」といっています。その旗が現場から見えれば、日本の現場は元気になるのです。

ここから先はログインID・パスワードをお持ちの読者様のみ閲覧ができます。

ログインID・パスワードをお持ちの方は、ログインしてください。

ログイン
購読申込

特集

全てを表示

年度別 INDEX

編集部だより Editorial department
読者の声 voice