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HOME > 2013年4月-6月(No.5) > 特集 > 運用・保守の課題「座談会」
特集 運用・保守の課題 どうすれば事故を未然に防げるのか

座談会「運用・保守で事故を未然に防ぐには」

教授 田中 健次氏 チーフシニアクオリティマネージャー 黒木 優一郎氏 品質グループ長 新木 純氏
田中

「運用・保守の課題」ということで、どうすれば、社会的に様々な事故を未然に防止できるかということをテーマにお話しいただきたいと思います。保守に関しては、昨年、中央自動車道の笹子トンネルで天井のコンクリート板が落下するという事故がありました。ここ数年、ボルトが抜けてしまったことが原因で航空機の火災事故が起きたり、長期使用の車軸が折れてジェットコースターが脱輪するなど、保全の失敗が原因で起こった事故が増えています。いったい何が問題なのか、あるいはなぜそのような問題が発生するのか、今日は考えてみたいと思います。

ハードの保全性技術

高度成長期時代の構造物の保全・保守の実態

黒木

笹子トンネルの事故以前は、誰も危険だと思っていなかったのではないでしょうか。今までどこかのボルトが1本でも外れて何か兆候が現れていれば点検したのでしょうが、点検の仕組みも十分ではなかったようで、結局、どんな状態になっているのかが把握されていなかったのですね。

田中

保全の必要性や重要性というものが正しく理解されていなかったことが大きな理由といえそうですね。保全は、必要なときにきちんとやっておかないといけません。そのために普段からモニタリングをして、危ないところを見つけないといけません。では何でそれをやらないのかというと、1つはコストの問題です。見た目は大丈夫なのに、そんなところにお金をかけていつも見ていなければいけないのかと。怠けているというよりは、やらなくてもいいと思い込む要因がいくつかあるのかもしれません。

編集部

製品だと、こういうことが起こったらこうなるよ、ということを設計の段階で出しますよね。構造物も同じように考えればいいのですが、“もし万が一これが落ちたらこうなるよ”というリスク予測の考え方が、鈍くなってしまっているのではないでしょうか。それは高品質になり、ものが長く持つようになったからで、その認識も変えていく必要があると思います。

田中

1つは、個人の持ち物でないものに対する保全ですね。公共物とか、トンネルなど、まさにそうですよね。自分のものだったらお金を出してでもやろうと思うのだけれど、トンネルを管理しているのは道路の会社で、個人の持ち物ではないので、保全の必要性を、会社がどのくらい真剣に考えているかです。

新木

笹子トンネルの話とジェットコースターの話は、公共性という意味では一緒ですが、事業体が全く違います。ジェットコースターは特定の事業で、トンネルは行政です。特定の事業者からすると保全はできたと思います。笹子トンネルの場合はそのスパンが長すぎて安全神話のようになっている。ゼロか100かではなく、何か変化が当然あるわけです。お金の問題があるかもしれませんが、結果ではなくプロセスをみにいくという計画が最初からあったのかが疑問です。

田中

一応、検査のマニュアルはあって、本当は打音検査をすることになっていたけれども、検査対象が高いところにあるという理由で目視して終わらせてしまっている。それで問題がないから、その方法で検査し続け、兆候が見つからなかったというわけです。行政というか、公共物に近いものの保全をどう考えるかですね。

いま問題になっているのは首都高速で、あれも映像を見ると早く手を打たないとだめじゃないかと思うぐらい朽ちてきています。東京にあるいろいろな橋が一斉にこれから崩れる可能性があると、土木関係の人は言っていますが、あまり積極的に対応しない。たぶん、それはまだどこも落ちていないからですよね。1つでも落ちると、慌ててみんな一斉に打音検査などをやるという話になるのですが、技術的にできないということではなく、マネジメント的に後回しにしている。まさに見える化をして、事前に危ないぞという警笛を鳴らしてやる方向にいかないといけません。

ジェットコースターの場合は私企業ですから、事故を起こせば信頼を失うという問題があり、たぶんある程度のフィードバックがかかります。その意識が低かったという点で、笹子トンネルは少し違うと思います。

それぞれ技術的に難しい問題もあるでしょうが、それを管理している主体が、どのくらいリスク意識を持っているかという問題がありそうです。

新木

公共性、経済性が先行してしまっています。保全の必要性を判断する閾値は、見える化していかないといけません。

黒木

新聞に掲載されていましたが、国交省が全国の市町村道にあるトンネルの点検マニュアルがあるかどうかを調べたところ、692市町村すべてがもっていなかったとありました。予算がない、技術がわかる人がいないなど、誰も点検マニュアルをつくろうと思わなかったとのことでした。トンネルを通る時、本当に大丈夫なのかと不安に思います。先生が言われるように、高度成長期時代につくったものがこれからどんどん危なくなってきます。工場もそうだし、建物もそうだし、公共物もそうです。危険がだんだん増えて、リスクがどんどん大きくなってきています。

田中

最近、前兆がなくていきなり大きな事故が起こることが多くなったような気もします。少しずつ起こってくれればどこかで歯止めということもあると思うのですが、それがわからないで、いきなり大きな事故が起こるのです。予防保全が難しくなっているのかもしれませんが、事故は何とか防がないといけない。そういう意味では、技術の問題と意思決定の問題は別に考えないといけない、そこは切り分けて対応していく必要があるのかと思います。

新木

意思決定を根拠づける技術は重要ですね。

田中

判断するための見える化は大事です。最近は、構造がわからなくなっているから、内部でトラブルがあっても、どこが壊れているかがわからない。壊れた、あるいは壊れそうだというのが外に見えるようにする工夫がありますよね。溶液の色が変わることで、見ていてすぐわかるようになど、保守の専門家だけに任せるのでなく、使っている人が、形や色で気づいて対応できるやり方です。

保守の人に任せればいいのだということだけではなく、使っている人が一緒に対応してゆくことが、これからは必要になってくるのかなという気がします。めったに壊れなくなってきた分だけ、いざ何かがあったときにどうしていいかわからないということが増えていますものね。従来の保全とはずいぶん変わってきたかなという感じがします。

モニタリング機器の信頼性

田中

保全・設計の中ではモニタリングが重要になっていますが、モニタリング機器がトラブルを起こすケースも意外と多いですね。「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故は、まさにその典型です。配管の中の流体の温度を測るために差し込んだ温度計が壊れてしまい、トラブルを起こしました。

モニタリングして、いろいろな問題をキャッチすることはすごく大事ですが、キャッチするはずの機械そのものにトラブルが起こる。センシング機器の信頼性は非常に高いものが要求されていますが、モニタリングのために突起物を入れたり、何もないところに穴をあけたりすることが多いので、そこから液漏れなどが生じやすくなります。

今回、福島で漏れている汚染水も、それが原因かもしれないといいわれています。モニタリングはすごく大事で、保守ではベースになりますが、たくさんモニタリングすればいいのかというとそうではなく、最小限のところでいかにモニタリングするか、しかもそれでいかに監視の信頼性を高めていくかが、これからの課題の1つかと思います。

同時に、モニタリングをしながら、予測が外れたところをうまくキャッチし、対応を早くすることが、全体としては大きな課題になるかと思います。

黒木

装置の状態をモニタリングする装置があるのですが、それがちゃんと動いているかどうかまでやっていますね。

田中

私もモニタリング装置同士をネットワークでつないでいるという話を聞いたことがあります。1台が異常を見つけても、他がそれをキャッチしていないと、それは本当なのかというのを多数決で決定する方法でした。トータルとして、どこまで信頼性を要求するか、どこにお金をかけるかという、全体のバランス感覚も当然要求されるでしょう。

新木

製造ラインでは、生産データを常時モニタリングして、MT法により正常か異常の判定を行い、異常を検出した場合にはフィードバックがかかるようになっています。異常や変化に対して感度が良いようです。

田中

何をモニタリングするか、対象を決めるのが実は重要で、笹子トンネルの事故が起こった直後に“みんながボルトばかり見ているが、山のことを見ているのか”という面白いことを言っている人がいました。山が変形しているので、そこに力がかかって、ああいう問題が起きた可能性もあるので、最初からその可能性を捨てるのはどうかというわけです。みんなボルトばかりを問題にしていますが、あの山自体が結構水分を含みやすいので、雨が降ったときに地形が変わったということも影響しているのではないかとの指摘です。最初に設計した人たちが、どこまで山のことを考慮して長さとか、ボルトの大きさを決めたのかということも考えないと、ボルトが抜けた現象の検討だけでは不十分だというのです。

そのときに、strengthとstressと両方をみるという観点も大事だと思いました。事故が起こると、みんなstrengthばかり目がいってしまい、stressは置き去りにされてしまうことが結構あります。予測ではこうだったけれども、予測以上にストレスがかかったとか、そういうこともしっかりつかんでいかないと、保全で次にフィードバックさせるときには不十分かもしれませんね。

モニタリング機器の信頼性 イメージ

長期利用における運用の見直し

新木

たとえば都市部で下水管が老朽化して、突然道路が陥没してしまうということがありました。50年ぐらい前に埋設されたものは行政と一緒に老朽化診断に取組んでおり、危険度合いを可視化して、リスクが高い箇所を修復していくことに注力しています。行政には技術者も少ないと思いますので、可視化することで、事前に危険を把握する1つの手がかりになると思います。天井崩落事故でもこのようなことがなされていれば,危険度合いが事前にわかったはずです。

黒木

年数が経ったらこういうチェックをしないといけないとか、見ないといけないとか、それははじめから設計図面、メンテナンス図面などに明記されていたのでしょうか。

新木

「下水管は50年もちます」といったとします。今の時代だからこそ、運用・保守の計画を立てた上で引き渡しますが、50年前にそういうものがあったかというと、十分では無かったと思います。

田中

50年もつというのはスパンが長いですよね。つくった当時の人は、会社にはすでに退職していないでしょうし、運用・管理する人が、責任を持って管理していかなければいけないですね。

新木

たとえば、昔のIHクッキングヒーターで、非磁性のステンレス圧力鍋を使い続けていた場合に、電流の負荷が増大してコンデンサーが絶縁破壊し煙が出てしまうという不具合がありました。当時のものは、そういう使い方を想定していなかったので発生してしまったと考えられます。これは、使う側の使用環境の変化で起こった事故ともいえます。

つまり、時代の流れと共に、設計時には想定されていない使われ方が原因となる場合があります。

田中

期間的に長くて劣化予測が難しい問題と、使用の環境が変わってきて、最初に思っていたのとは違う状況が起きたとき、どう対応するかという問題ですね。使用環境が変わってきたことで問題になるものは、他にもありますね。

たとえば、シュレッダーの事故は、オフィスで使用していたものを家庭で使うようになり、使用環境が変わったことで、子供が指を挟まれるという今まで発生なかった事故が起きるようになりました。このような使用環境の変化をいかに迅速にキャッチして対応するかということになります。

新木

どれだけ危なさ加減を注視するか、リスクを評価するかということが重要です。長期で考えた使用環境の話になると、時代と共に運用を見直していかないと、ちがう結果になってしまいます。

長期使用製品の保守対応

田中

使用期間が長いという意味では、最近、家電製品なども寿命が長くなってきましたが、それらの保全についてはいかがでしょうか。

新木

ある大手家電メーカーが37年前に製造した扇風機が火を噴いたという事例がありました。メーカー側からすると、設計したときにまさか30年以上も使用するとは考えていなかったと思います。メーカーの責任としては、あるタイミングで本当に大丈夫なのかということをチェックする必要があります。笹子トンネルもエレベーターの事故もそうですが、メンテナンスにビジネスとしてのチャンスがある事業はいいと思うのですが、それがない家庭用の製品などでは経験に学んで仕組みをつくっていかないといけないわけです。

田中

保全をしなくてもよい製品をつくろうという傾向は、今でもあるのでしょうか。

黒木

安全面だと「長期使用製品安全点検・表示制度」ができ、ある年数が経つと点検することが使う側にも求められています。

新木

提供する側もリスクをわかりやすくアナウンスして、10年目にチェックを入れなさいとなっています。20年ぐらい前には、世の中にメンテナンスフリーのような考え方があり、LCCという考え方はまだ一般的ではありませんでした。何もしないということは素晴らしい製品であった時代でしたが、痛い目に遭いつつ制度が変わってきているような気もします。

田中

この点検制度に実効力があるのかなと私はいつも疑問に思っています。何年経ったらきちんと点検しなさいといわれても、先ほどの扇風機も問題なく動いていたら、とてもそういう気にはなれません。何か不具合があれば点検しなければいけないとは思いますが、10年たったら必ず点検してくださいといわれて、10年後みんながそれを点検に持っていくかというと、なかなか難しいという気がします。

新木

自動車については車検制度で必ず点検をしますが、たとえば、10年経つと1度機能が止まってしまうということが必要かもしれません。

田中

ユーザーを巻き込んで、一緒になって安全性をチェックするという方向性は望ましいものですが、本当にそれがうまく機能するかは、もう少し先までいかないとわかりません。ユーザーに頼るのは難しいかもしれませんね。

新木

ユーザー任せにするとなかなか難しいですが、量販店を経由すれば、ユーザー登録を利用することができます。

田中

住宅メーカーさんは、メーカー側がユーザーを完全にキャッチすることが可能な業界ですね。そうすると、何年かしてメンテナンスが必要になってきた場合に、どのような取組みをされていますか。

新木

考え方として大きく2つあります。両方とも法律ですが、1つは、「安全・安心のために機能を損なわないようにする」という話と、もう1つは、住宅の場合は「資産価値を維持する」ということで、お客様から拒否されない限りは、5年ごとに「どうですか」というお声掛けは、60年間実施しています。

田中

そういう製品だと、定期的にチェックしているわけですから、ある意味安心ですね。しかし、普通の家電製品などは、買った後はユーザーが管理するわけです。電機メーカーはお客様登録やユーザー登録をしてもらい、トラブルが発生したときにはメールで直接対応したりする、そういう仕組みがもっと活用されればよいですね。

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