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HOME > 2016年01月-03月(No.16) > 特集 >IT化時代の人材育成 「秦 昌樹氏(神奈川県立西部総合職業技術校)」

すべての「モノ」に通信機能を持たせ、インターネットに接続されるIoT (Internet of Things)の世界が現実化される時代となり、単なる生産の効率化を超え、製造業のビジネスモデルも変革しつつある。ものづくりがIT化、自動化されていく一方、技術者個人の技術力や不具合発生時の対応力などの低下が危惧される。
技術・技能継承はこれまでも重要視され、注目されているが、「技術」「技能」のノウハウを伝えるだけでは不十分である。「なぜそうするのか」「なぜそうしなければならないのか」、技術・技能に付随する「目的」や「本質」をきちんと教え繋いでいくことがもっとも重要なことである。その目的を確実に伝え、継承していかなければ、本来の技術は正しく引き継がれていかない。目的のない技術は、進化の方向を見誤ってしまう。前任者から引き継いだ技術を育て、さらに新しい技術を加え、取捨選択し、さらに磨いていく能力が求められてきている。IT化の中、加速していくものづくりの「技術・技能継承」の取組みと人材育成の要となるポイントとはどのようなものか。参考となる企業や組織の取組みや考えをクローズアップして紹介したい。

(編集部)

「かながわものづくり継承塾」
組織を越えてものづくり技能・技術を伝承する

秦 昌樹氏

神奈川県立西部総合職業技術校

校長 秦 昌樹(はた まさき)氏

神奈川県立西部総合職業技術校(以下、かなテクカレッジ西部)では、“「手に、職。」が未来を変える”というキャッチフレーズのもと、さまざまな分野の職業技術を学ぶ場を提供しています。さらに同校では、中小企業技術者のスキルアップを支援するセミナーも開催。その一環として開催されている「かながわものづくり継承塾」に、本特集では注目しました。そこでは、企業で卓越した技能・技術をもち、伝承を進める熟練技能者が講師となり、各企業で働く在職者を対象に、技能・技術を磨いて継承する場を提供しています。組織の垣根を越えて伝えられる技能・技術伝承とは。かながわものづくり継承塾の創設に至ったきっかけ、ねらい、技能・技術の継承への想いなど、かなテクカレッジ西部の秦昌樹校長にお話をうかがいました。(取材:廣川州伸)

「かなテクカレッジ西部」

かなテクカレッジ西部(神奈川県秦野市)

かなテクカレッジ西部(神奈川県秦野市)

――校内を拝見させていただきましたが、どの教室も広々としていて、とてもきれいな施設ですね。

秦校長(以下、略):ここでは、誰もが利用しやすい施設をめざしてきました。太陽光発電や雨水利用設備を活用し、環境にも配慮しています。また、スロープや多機能トイレなどを設置し、バリアフリー化を進めました。校内がきれいといわれるのは、ことさらうれしいですね。ここの清掃は業者の方以外にも、当校のビルメンテナンスコースで学ぶ生徒たちも実習の一環で清掃をしているからです。

――それはよい試みですね。それでは、かなテクカレッジ西部が開校にいたる経緯を教えてください。

かなテクカレッジ西部は、工業技術・建築技術・社会サービスの各分野の訓練を1校で実施できる大規模総合型の新しい職業技術校です。かつて神奈川県内では、公共職業訓練施設が点在していました。教える内容は工業系、情報系、建築系、介護などの社会サービス系でしたが、いわゆる「単科」「単分野」が点在していたのです。

それを集約して大規模・総合化しようという計画は、2003年~2004年頃にでてきました。2004年に技術校の再編整備計画が作成され、それにもとづいて統合が進められていきました。

まず、2008年4月に神奈川県東部にある5つの施設を統合し、横浜市鶴見区で「かなテクカレッジ東部」がスタート。その5年後、2013年4月に神奈川県西部の秦野、平塚、藤沢、小田原の4校を統合して「かなテクカレッジ西部」が開校しました。

――統合したメリットは、どこにあったのでしょうか。

指導員や設備を集中的に配置することで、訓練の効率化、就職支援の強化等が実現できることです。それまで分散していた指導員が1ヶ所に集まることでマンパワーがでます。ここは事務系のスタッフを入れて60名以上いますが、10人、20人の職場より、人が多ければマンパワーとして、いろいろな事業がやりやすくなります。

もちろん行政改革の観点になりますが、管理部門も1つで済むので効率的です。さらに就職先の企業からみれば、あちこちに点在する訓練施設にアプローチしなくても、当校に求人をすればいいので、助かっているとの声もあります。

また、異業種の訓練コースの間で、今までできなかったコラボレーションができることもメリットのひとつです。たとえば、当校には建築技術分野のコースがあり、社会サービス分野のコースがあります。そこで室内設計施工を学ぶ人が、実際に車椅子を体験し、障害者にもやさしい建築とはどういうものかを考える。あるいはケアワーカーコースの人たちが、バリアフリーの設計は今どのようになっているかを教えてもらえる。そのような、互いに影響し合う、複合的な授業ができるようになりました。

――逆に、統合してむずかしかったことはありましたか。

イメージ

それぞれの歴史ある学校が統合するわけですから、むずかしい側面もありました。同じ仕事をしているようでも、各校の文化はちがっているものです。それぞれの文化で運営してきた職員や指導員が1つの職場に集まるので、最初は標準化がむずかしいこともありましたが、職員間、セクション間で、しっかりコミュニケーションを図り、今では「かなテクカレッジ西部」としての文化ができつつあります。

その中で、西部校としての独自性をもちたいということで、スローガンに「安全性」を掲げました。企業で何を重視しているかといえば、何よりも安全第一。大企業でよくある「5S」や、危険予知という意味の「KYT(危険予知トレーニング)活動」を当校でも実施しています。他の職業訓練施設では、部分的に取り入れているところはありますが、全国でも本格的に取組んでいるところは少ないようです。私たちは大企業が進めているレベルまで行おうと2年めの後半から試行をはじめ、3年めの本年度からは全コースに「安全教育」をからませ、1つの共通したやり方で本格実施に入ったところです。

さらに高校との連携も進めています。これは、われわれだけが一方的に思っていてもできないことです。地元に秦野総合高校という県立高校があるのですが、工業系の専門教育の授業はあっても施設・設備が充実していない。そこで、秦野総合高校の校長先生が、当校が建築中の時から「早く開校しないか」と構想を練ってくれていたようで、開校した時にいろいろなモーションをかけていただきました。

秦野総合高校とは、2014年9月に覚書を交わし、秦野総合高校の定時制の生徒たちをお預かりして、当校の設備を使って体験授業を行っています。逆に秦野総合高校からは、数学の先生に来ていただき、西部校の生徒に補講をしてもらうなど、お互いに授業を行うことを進めてきました。

――地元の高校とのコラボレーションは、生徒にも有意義でしょうね。

「自動車整備」コース風景

「自動車整備」コース風景

2016年4月の入校生からは、それを一歩進めた形で、機械コース限定ですが、文科省の技能連携制度を導入する予定です。これは、定時制の最終学年の方を対象にして、高校在校のまま当校の機械コースに入校していただき、訓練修了と同時に高校も卒業できるという制度です。

これまでは、定時制の方が当校に入校した場合、定時制を卒業した後1年間かけて訓練してから就職されていましたが、新しい制度なら1年前倒しで就職できることになります。公共職業訓練施設を技能連携制度で活用するのは、全国でも珍しいことですし、定時制の最終学年でそのまま就職へと進められるのは、おそらく全国ではじめての試みかと思います。

当校では、企業の現場で使用されている設備・機器と同等の環境を整備しています。定時制の生徒さんも、それまでは本格的な工作機械などは、見たことも触ったこともないわけです。材料からモノができるまでを自身で体験すると、目の色が変わってきます。

――若い人たちが、ものづくりに目を見張る姿はよいですね。

今、ものづくり離れ、理系離れといわれていますが、当校で高度な技能の凄さをみて、自分で体験することにより、そういう道に進んでくれる若い人がたくさん出ることを期待しています。名工レベルの技能者は、単純に旋盤を回して金属を削っているようにみえても、実はいろいろな技を駆使しています。熟練しなければ手に入らない高度な技をもったプロ中のプロなのです。そのようなプロフェッショナルに講師として来てもらっていますので、インパクトは大きいと思います。

是非とも多くの若い方に、かなテクカレッジを知ってもらい、入校して技を身に付け、技術・技能の道に進んでいただきたい。若い人には非正規雇用の問題もあり、貧困の問題もあります。そういったところを抜け出すためにも、ものづくりにチャレンジしてほしい。サッカーでいうオープンスペースをねらうという意味では、技能分野では今は人が足りない状態。ニーズも求人もあります。たとえば自動車整備コースでは、ディーラーの整備士が不足していることもあり、ほとんどの生徒は早々と就職先が決まる状態で、さらなる求人はお断りしています。他のコースも就職は好調で、2014年の全コースの就職率は94%にのぼっています。

小説やテレビでも「下町ロケット」が話題になりましたが、日本はものづくりが基本。そこをもう一度見直して、しっかりと立て直していくことが必要です。国内では、もっと製造業を活かしていこうという動きがあります。そういう意味においても、技能者・技術者の育成は非常に重要になってきたと思います。

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